第32回林忠彦賞の授賞式が4月20日、遠石会館(周南市遠石2)で開かれた。
戦後に写真界の第一線で活躍した同市出身の写真家・林忠彦の業績をたたえ、周南市と周南市文化振興財団が1991(平成3)年度に創設した同賞。今回、受賞したのは写真家・奥山淳志さんの写真集「BENZO ESQUISSES(ベンゾウ エスキース)1920-2012」(2023年出版)で、応募総数78点から選ばれた。
写真集には、北海道新十津川町の丸太小屋で絵を描きながら自給自足で生活する井上弁造さんの暮らしぶりや作品を約26年にわたって撮影した写真127点を収録。28歳でフリーとなり岩手県に移住した奥山さんは、出版社に勤めていた25歳の時、絵描きになることが夢だった井上さんと出会った。戦争やさまざまな事情で夢はかなわなかったが生涯にわたってエスキース(習作、下絵)を描き続けた井上さんの暮らしぶりや考え方、生き方に感銘を受け、年に4、5回、井上さんの元に通い撮影を続けたという。2012(平成24)年に井上さんが92歳で亡くなった後も、生きた証として作品や庭の風景などを撮影し続けている。
授賞式には、奥山さんをはじめ、藤井律子周南市長や審査員、関係者や市民など約100人が出席。奥山さんが話す受賞の喜びや大石芳野審査委員長の講評に聞き入った。授賞式は、2004(平成16)年から昨年まで東京で行われたが、市民にも林忠彦賞を身近に感じてもらおうと21年ぶりに周南市で開催された。
同日から、周南市美術博物館(花畠町)で奥山さんの受賞記念写真展を開催している。井上さんが描いたエスキースを丸太小屋の周りの植物やその陰と共に撮影した写真や、井上さんが作画する様子、井上さんが暮らした庭の風景など68点を展示する。4月29日まで。
奥山さんは「多くの皆さんと弁造さんの生き方を共有すると、私自身も新たな弁造さんに気付かされることもある。写真展が生きる本質や人生の豊かさについて考えるきっかけになれば」と来場を呼びかける。
同美術博物館の開館時間は9時30分~17時。入場無料。月曜休館。